東京地方裁判所 昭和39年(モ)2875号 判決 1964年7月14日
債権者 佐竹浪義
右訴訟代理人弁護士 真木洋
同 古谷明一
債務者 桶田斎之定
右訴訟代理人弁護士 岩村滝夫
主文
当裁判所が昭和三九年(ヨ)第七六二号不動産仮処分申請事件について同年二月一〇日になした仮処分決定は、これを取り消す。
債権者の本件仮処分申請を却下する。
訴訟費用は債権者の負担とする。
この判決は第一項に限り、仮りに執行することができる。
事実
≪省略≫
理由
一、別紙目録記載の土地が債権者の所有であつたこと、右土地について債権者主張の如く、債権者から申請外竹内奎吉への所有権移転登記がなされまた債務者のために抵当権設定登記のなされていること、債務者は右抵当権にもとづいて東京地方裁判所に対し右土地の競売を申立て、同裁判所は昭和三八年(ケ)第四八一二号不動産競売手続事件として受理し、同裁判所が昭和三八年六月二五日右土地につき競売手続開始の決定をし次いで申請外株式会社福入商社がこれを競落して、競落許可決定を受け、その確定を待つて既に競落代金を完納したことはいずれも当事者間に争がない。
二、ところで抵当権実行による不動産競売手続においては、競落人の競落代金完納によつて競落物件の所有権は競落人に移転するが、競売申立の基本である抵当権が存在しない場合は、競落代金を完納しても競落人が競落物件の所有権を取得することはない。しかし競落代金完納後は抵当権が存在しないのに開始された競売手続の違法性はもはやこれを主張することは許されないと解すべく、この意味では競売手続は既に終了したというべきであり、抵当物件の所有者が抵当権不存在を理由としてその物件の所有権が依然として自己に帰属することを主張するためには競落人に対して、その所有権を否認し、所有権移転登記手続請求の本訴提起ないし処分禁止仮処分を求めなければならないというべきである。蓋し競落人は競落代金の完納によつて競落物件の所有権を取得したものとして、換言すればその物件について独立の権利関係に立つ者としての地位を取得するから抵当物件の所有者であつた者と抵当権者との間の抵当権の存否についての訴訟の結果によつて競落人のその物件に対する所有権の存否について消長を来す筈がないからである。尤も競売の手続は競落人の代金支払によつても未だ完了せず、競売代金の交付及び競落人の所有権移転登記の嘱託等の諸手続が残されており、この意味においては競売手続は未了であり、そして競落人に対する所有権移転の登記嘱託がなされていないと競落人に対する競落物件の所有権移転登記手続請求の本訴提起ないし右物件の処分禁止仮処分の登記簿記入による執行は不可能であるが、競落人に対する競落物件の所有権移転登記は競落代金完納後裁判所が職権をもつて行うものであり、偶々競落人が右登記に要する費用未納のためにその嘱託が事実上不可能の場合にも債権者の代位による登記申請の場合に準じて競落物件の所有権を争う者が競落人に代り右費用を代納し、競落人のために所有権移転の嘱託登記をなさしめることが可能であると解するから、現に競落人に対する所有権移転登記が未了である場合でも競落代金完納後は専ら競落人を相手方として競落物件についての所有権移転登記請求の本訴ないし処分禁止の仮処分を求めるべきであるとする前段の結論と同様である。
三、本件においては、登記費用未納のため競落人に対する所有権取得登記がなされていないことは債務者の自認するところであるが、競落人たる申請外株式会社福入商社が目的不動産につき競落許可決定を受けた上、その確定を待つて競落代金を支払つているのであるから、たとえ債権者主張のように、債務者の抵当権が存在しなかつたとしても上記の理由によつて、もはや本件競売手続の停止を求めるに由なきものとしなければならない。よつて債権者の本件申請は爾余の点について判断するまでもなく、この点において既に失当であるから、主文第一項掲記の仮処分決定を取り消して申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法七五六条の二、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 佐藤安弘 田中弘)